夏の雲雀は かろやかに

        *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
         789女子高生設定をお借りしました。
 


       



天下御免の夏休みの真っ只中だというに、
突然のこと、在籍中の女学園へと呼び出された、
七郎次、平八、久蔵の3人娘だったが。
素行不行状だの、成績不振だのを叱られてのことじゃあ勿論なく。
彼女らが本年度の代表を務めた“五月祭”の女王、
メイクイーンの衣装を再びその身にまとい、
来年度のカレンダーに使うスチール写真を撮影しましょうという、
びっくり企画がいきなり持ち込まれたのだそうで。
卒業生や理事など、日頃ご支援くださっている方々へ、
年末のご挨拶にとお配りする代物。
これまで、単に学園内の風景を撮影して来たシリーズだのに、
そんなところにその姿を載せるだなんて、

  ――これはきっと、いい縁談が降りしきりますわよ、と

いや、そんな呑気なお話は どこからも欠片も出なかったのだが。

 「まったくです。」
 「もーりんさんたら、もう物忘れが始まっているのですか?」
 「そういえば、本編がまたまたストップしたままで数カ月…。」

だあ〜〜、そういう内幕話は持ち出さないっ。

 「何だか怪しい企画だよねと、
  それを取り沙汰していたところで力尽きたんじゃないですか。」
 「そうそう。」

力尽きたなんて言い方されるのは心外なんですけど…と、
井戸端会議っぽいやりとりを続けてばっかでは埒が明かない。
ここまでのお話はこんなもんとして。





       ◇◇



別に撮影の段取りに不備があるとは言わない。
撮影のプランは前以て構築して来ておいでならしく、
学園内のあちこち、
物によっては国や都が“文化財”と指定した、
そりゃあ由緒ある建物や施設を、
遺漏なくフォローしているところからして、
きちんと下調べもしてあったようだし。
カメラマンである男性の手際も態度も、特に問題はない手慣れたもので。
思わぬ位置にあった枝なぞがあっても、
邪魔だから切っちまえなんてな乱暴は一切言わず。
自分が指定したとは言え、
生まものな被写体へも“暑くはないか、キツくはないか”と気遣いもこまやか。
大半が男性のスタッフたちもきびきびしていて、
カメラのみならず、光源を操作するためのレフ板だの、
キャンバスのような生なりの布だの、
様々な機材・資材を効率よくセットし、
立ったり座ったりとなかなかに骨惜しみなく動いており。

 「でもさ。」
 「…うん。」
 「そうなんだよね。」

自惚れて言うんじゃないが、
これほどの愛らしい女子高生を3人も登用しておいて、
だっていうのに、何と言いますか空気が重い。
カメラマンのお兄さんが何とか軽佻な態度を見せているので、
それでもって相殺されているものの。
何て言うのか、
こう…明るく華やいだ空気をちっっとも醸してくれない彼らだってのも、
こう考えると随分と不自然かも。
体育会系ですと言わんばかりに、
無言で黙々と作業をこなす男衆というのが、
何と言いますか妙な緊張を醸してさえおり。
彼女らは世話役として臨時で雇われたバイトだという、
女子大生の付き人二人が愛想を振っても、
それへ にやけたり相槌打ったりという気配もないようで。

 「だからってアタシらへ当たられたって困るんですけどね。」
 「あ、やっぱり。」
 「気づきますよ、汗とかしたたるまで見て見ぬ振りですもの。」
 「さすがに久蔵殿が倒れたんで、ちょっとは反省したらしいですが。」
 「そうね。」
 「でも却って邪魔だ。」
 「おお、久蔵殿も言う言う。」

そも貧血症ではあったので、対処も慣れたものだと言い、
起き上がれるようなので もう大丈夫と本人が主張したため、
撮影会は再開されて。
一応のフォローにと、
最初から用意されてあったクーラーバッグも、休憩中に中身が詰め替えられていて、

 「出来れば午前中に済ませますからね。それまで頑張ろうね?」

なかなかに端正なお顔で にっこり微笑ったカメラマンさんは、
深くも浅くも棘や癖のないところが、卒がないと言いますか、

 「ああいうのは掴みどころがないというのだ。」
 「そうですよね。」

軽佻浮薄男ですとするには、構図の決め方や、指示の出し方が堂に入ってるし。
気さくで少々馴れ馴れしく見せて、でも。
必要以上には踏み込まないから、煙たくはないし、同時に印象も残さない。

 「きっと、この撮影が終わって明日にでもなれば、
  写真があれば“この人でした”と指摘出来ても、
  どんな人だったかを口では表現しにくくなってるだろね。」

今ドキ風のいい男、ちょっとイケメン。
カメラマンといってもひ弱なタイプじゃなく、
背が高くてスタイルもまあまあ、
髪は肩まで延ばしてたかな、え? そんな長かった? という感じで。
接してて肌合いのいい人だけど、記憶にも残りにくい人。
それを……故意に演じているのだとすれば、
凡骨に見せといて実はなかなかに出来る人、ということにならないか?

 「何よりも、訝しいな怪しいなと思ったから気づいたことだしね。」
 「うん、見た目より手ごわい奴かも知れん。」
 「そうそう。むしろ切っ掛けになったのは…。」

  あ、草野さん、そこに座ってね。
  三木さんと林田さんは、左右に。
  えと三木さんの方、大丈夫だったらそこにあるベールを広げて、
  女王様の上へ掲げてもらえるかな。
  そうそう、その角度きれいだよ。
  立ち眩みしない? 平気? よかった。じゃあ撮るね。

……と、
モデルたちをフレームに立たせてシャッターを降ろすまでの手際は、
実に素早くて巧みなのに。
そこまでのセッティングをするのに、やたら時間や手間が掛かってないかなと。

 「そりゃあさ、撮影優先でいじりまくっちゃあ困るって、
  希少な価値満載の施設ばっかだからって。
  そこのところは重々注意されてもいるんでしょうし。
  実際、賠償問題になんかなったら、
  普通のサラリーマンの年収じゃあ歯が立たないものばっかりですものね。」

カメラマンの年収がいかほどかは知らないが、
まだメジャーなお人とは見えないし、
そのアシスタントは もっとあのその、懐ろ具合も低かろう。

 「だからっていう物知らずから、
  却って価値が判らないまま無茶するかと思や、
  そういうこともなくってさ。」
 「そうそう。そこが何だか、ねぇ?」

むしろ、セッティングにやたら時間をかけて、丁寧に構える彼らであり。
撮影するぞと構えたスポットを、
恐らくは完全に修復するためか、何人もがかりでそりゃあそりゃあ丁寧に念入りに。
壁から床から、調度の数々までを。
戸外なら敷石から周囲に植わってる草や樹に至るまでを、
撫でて触れてと確認しまくり。
白いドレスに染みでもつけちゃあ大変だしと、
カメラマンのお兄様は言っていたが、

 「屋内撮影でまでその理屈は通らない。」
 「それこそ塵一つなく掃除されてるってのに、それはないっていうのよね。」

夏休み中でも、それこそこの撮影の話が入ったことから、
シスターたち総動員で点検し尽くしたであろうし、
そも、日頃の清掃が行き届いているのにと思えば、
それを手掛けている生徒らでもある彼女らの前でのその所業は、
むしろ無礼な振る舞いでもあって。

 「…そか、それもあって引っ掛かったんだ。」
 「だって礼拝堂は、
  選ばれたお掃除上手しか、祭壇の係を手掛けさせてはもらえませんもの。」

お掃除には縁遠い、お嬢様ばかりの学園だが、それでもね。
落ち着いた手際とか、同じグループになった人々への指導力とかがあってこそと、
それこそ 人として認められてこそ就ける係なだけに。
それと、そちらもやはり文化財級の器物を取り扱う身になるがため、
祭壇主事という肩書は単なる清掃担当ではなく、
財物管理に連なるそれなりのお立場でもあるとされるほど。

 「いちいち水分補給休憩なんて取ってるけど、それだって怪しいよね。」
 「うん。元気なうちに とっとと撮ってほしいほどなのにね。」
 「そういえば、決まって携帯で連絡取ってる人がいるの気づいてた?」
 「うん、鼻にピアスしてる短髪の。」

  あれって、だからバイトの彼女たちにも注意出来ないんじゃない?
  つか、むしろカモフラージュにしてるとか。
  今ドキはしょうがないよって方向で?

 「彼女たち、あと少しだから頑張ろうね。」
 「は〜いvv」

話し掛けられりゃあ、切り替えも素早く、
目許たわめて楚々と微笑い返して見せた三人だったが、

 「………ちょっと待って。」
 「? 何なにシチさん。」
 「???」

お顔は笑顔のまんまで、声をかけて来たカメラマンさんへと向けていたが、
その口許を微妙に逼迫させていた七郎次なのへと、あとの二人が気づくのはたやすく。

 「そうよ、当たり前だから気がつかなかったけれど。
  今まで撮って来た場所って、ほら。」
 「ほら?」
 「??   …っ!」
 「そう、久蔵殿も思い出したね。
  あの虹宮堂さんの一件の折に、警察が贓物捜索にって浚った場所ばっかなの。」

白い額に浮かんだ汗は、暑さのせいばかりじゃなくなって。
おざなりな微笑が霞のように消え失せた後には、
やや堅い表情になった横顔が、
周囲の木下闇の中に、その輪郭をくっきり冴えさせて浮かんでおり。

 「これは、真剣に構えにゃならない事態なのかもしれないよ。」




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